オリジナル小説「秘密の八重歯」第三章 – 15
消えた謎の指示書と発煙筒
賭博師Oは、公園である男と会っていた。身なりのしっかりした中年男性で、黒の中折れ帽を被っている。Oとその男性は、公園の同じベンチに腰掛けながら話をしていた。共に、相手を見ることはせずに、前を向いたままのやりとりだ。
「今のところ、すべて思い通りに事は運んでます」
Oがそう告げると、男は「うむ」とうなずいてから、革のカバンから書類の入った封筒を渡してこう言った。
「次の指示は、ここに書かれている。もし、計画通りに行かない場合は、すぐに連絡してほしい」
「わかりました」
帽子の男は、ゆっくりと立ち上がって、“上手くやれよ”と言い残すと、公園の広場を通って、その場から姿を消した。

男が去ってから、Oは封筒の中身を確認した。その中には、指示が書かれた手紙とパラフィン紙に包まれた札束が入っていた。Oは、札束を取り出してざっと枚数を数えてみた。一万円札で30枚はありそうだ。
そして、札束を胸ポケットにしまうと、ベンチに座ったまま指示書を読み始めた。しばらく読んでいると、その祇にポタポタっとしずくが落ちてきた。
「まずい!雨だ」
Oは、慌てて指示書を封筒にしまうと、急ぎ足で公園を後にした。水溶紙に書かれた指示書は、水に濡れると溶けて無くなってしまう。読み終えたら速やかに水に溶かすのがルールだからだ。家に戻ったOは、封筒から指示書を取り出して読もうとするが、何故か文字が消えてしまって読むことができない。さっき雨に濡れたからだろうか……?
Oは、ここで夢から覚めた。ソファの上で1時間ほど寝てしまったようだ。フーッとため息をついて額の汗を拭ったOは、浴室へ入って汗を流した。そして、ヘアートニックを髪にかけて気分転換をすると、服を着替えてどこかへと出かけて行った。
一方、一足先にOの家を出たノエルと少年Sは、立川の繁華街にあるジャズ喫茶のなかで密談をしていた。薄暗い店内のなか、長いカウンターとその対面の一段下がった位置にテーブル席がある。大きめな音でレコードが流れているため、会話を他人に聞かれる心配もない。

「さっきの話、どうする?」
少年Sの質問にノエルは答えた。
「うん、まずは発煙筒を手に入れなければな……それより、スーパーの襲撃を、いつ、どこで、誰にやらせるかだ」
Sは、うんとうなずいてからこう言った。
「グループのKとHに電話をかけてくる。この店に呼び出すつもりだ」
「あの、盗みが得意な2人か?」
「そうだ。あいつらは勘がいい。逃げ足も早いしな」
「いいだろう」
それから1時間後には、その店に全員が集まった。KとHを改めて紹介されたノエルは、スーパー襲撃の作戦を話し始めた。
「次の日曜に実行するつもりだ。場所は、立川駅北口のスーパーIYにしよう。この襲撃には発煙筒を使う。ダイナマイトに見せかけて店員を脅し、怯んでいるすきにレジの現金を奪うんだ。2人が逃げきるまで、オレとSは警備員と店員を見張り、場合によってはねじ伏せる」
補足するようにSが言った。
「発煙筒はすごい煙だそうだ。ダイナマイトだと叫べば、まわりは一斉に引くに違いない。日曜の閉店前ともなれば、売上金は10万は軽く越えてるだろう。奪った現金は4人で山分けだ」
KとHは顔を見合わせてからうなずいた。それを見たノエルは付け加えた。
「発煙筒は、実行の日までに手分けして手に入れよう。そして、日曜の午後3時にこの店の前で落ち合うんだ」
4人は、密談が終わると店を出てそこで解散した。KとHと分かれたノエルと少年Sは、立川駅北口のスーパーIYを下見に行った。そこへ行く途中、一方通行の通りを後ろから白いスカイラインが近づいてきて、運転手が2人に声をかけた。
「よお、この辺にいると思ったぜ」
その声に振り向くと、運転席にはセンパイOが乗っていた。そして、続けざまにこう言った。
「ちょうどいい、これを渡そうと思ってな」
Oは助手席から包袋を取り出すと、それをノエルに向かってパスをした。ノエルがキャッチしたのを見たOは、じゃあなと言って右手を上げると、そのまま走り去っていった。
ノエルと少年Sは、立ち止まって包を開けてみた。その中には、発煙筒のハイフレア―5が入っていた。
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