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オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 5

脅迫文とテレタイプの奇妙な符合

1968年6月に起こった横須賀線爆破事件は、日本の警察だけではなく、アメリカ大使館をはじめ在日米軍にとっても無視できないものだった。なかでも、この犯行を全学連などの過激派によるものと見ていたCIAでは、日米安保条約に反対するデモから在日米軍を巻き込んだテロへと活動が発展することを最も危惧していたのだ。

 

アメリカ政府は日本政府に対して、全学連や左翼系学生といった危険因子たちを囲い込むようにと強く申し入れていたが、なかなか対応策が打てない政府にいらだちを感じていた。横須賀線爆破のような無差別テロを封じ込むには、事前にテロを防止するために国家権力を駆使して活動家を抑え込まなければならない。

 

通信機器が並ぶ三菱商事電信課のテレックス室(1970年)※共同通信より

 

しかし、日本政府の動きは鈍く、国内世論の在日米軍への風当たりは日増しに強くなる一方だったのだ。国家権力で学生運動家たちを取り締まろうとすれば、日本政府や米軍への不満はさらに高まるに決まっている。何か別の方法で国内世論を味方につけなくては一斉に取り締まるのは不可能だろう。

 

そんな中、CIAでは日本人の元警察官を調べて、彼らをエージェントにした上での秘密工作を水面下で行っていたのである。三多摩地区に居住している元警察官はいち早くそのターゲットとなった。多くの大学生が下宿している地域で、綿密な謀略を行う必要があったからだ。それを実行し得るのは、警察の内部事情に詳しい人物でないと難しい。その謀略が成功すれば、三多摩地区の学生たちを一斉に取り締まるローラー作戦を敷くことができると踏んでいたのだ。

 

日本の警察が組織的にこうした謀略を企てることはあり得ない。もちろん、報道協定やおとり捜査などは犯人検挙のために行ってはいるが、それはごく限られた所轄単位での話であり、仮にこうした謀略を警察組織が行えば、必ずその情報はどこからか漏れ伝わって国家を揺るがすほどの大問題へと発展するだろう。こうした謀略に関与しているのは、ごく限られたスパイやエージェントであり、彼らを指揮するCIAなどの諜報機関の内部ですら、その秘密工作を知るのはごく一部の者だけなのだ。

 

現在でも貨物船で使われるSurrendered B/L(テレックスを使った通信)。 photo credit: SMS TTY via photopin (license)

 

センパイOとノエル、少年Sの3人は、次の多摩農協脅迫の準備を進めていた。前回起こった電話番号を間違えるようなミスは今回は許されない。前回は、実際に放火を行うなどの犯罪を伴う工作だったが、今回は脅迫だけにとどめる作戦だ。

 

7月25日の実行日の朝、多摩農協から徒歩で13分ほどの甲州街道(新道)沿いの空地に積まれていた石の下に脅迫状は置かれた。そして、その場所からすぐ近くの白糸台の民家に脅迫電話をかけて手紙を農協へと届けてもらうという計画だ。そして、同じ日の早朝には多磨霊園近くにある府中署多摩駐在所に直接電話をして、爆破を予告する電話をかけるのだ。

 

今回は、東芝に向かう現金輸送車が日本信託銀行を出発する時間帯と、府中署が動くタイミングが同時になるように脅迫電話をかける時間と場所も十分計算に入れて実行に及んだ。まずはじめに電話をしたのは多摩駐在所だ。前回の6月25日に怪文書を投函したY歯科医院のすぐ近くにある交番である。

 

府中警察署 多摩駐在所

 

午前7時20分に、多摩駐在所の電話が鳴った。電話を受けたのは、多摩駐在所の巡査長の妻だった。

「もしもし、多摩駐在ですか?」

「はい、そうですが」

 

30代くらいの男の声である電話の主は、続けてこう言った。

「お宅の近くの紅葉ヶ丘か朝日町一丁目の近くに、爆発物を仕掛けた。この前は雨に濡れて駄目だったが、今度のは精密だから、お昼ごろには爆発するよ」

「爆弾? 爆発物? どんなものよ」

 

「それは、言えないよ〜」

男は、そう言って電話を切った。末尾をのばしたような言い方は、まるで警察を嘲笑うかのような喋り方だった。通常、駐在への電話は直接は繋がらない。犯人は、公衆電話から府中署に電話をした上で、そこから駐在へと繋いでもらったのだ。通常、こうした電話の仕組みは一般人は知らない。そもそも、特定の駐在へ電話をする必要など、一般人にはあるはずもない。

 

府中署では、パトカーを派遣して紅葉ヶ丘と朝日町一丁目の周辺を巡回したが、爆発が起こることはなかった。これも、1カ月前と同様に単なる悪戯と判断してそれ以上捜査する者はいなかった。

そして、それから50分後の8時10分に、白糸台に住む明星学苑高校のA教師宅の電話が鳴った。ちょうど学校に出勤に出かける間際のことだった。

「もしもし、Aさんですか?」

「はい、そうです」

 

「お宅の近くにトウア土木っていうのがあるでしょう」

「興亜土木でしょう?」

 

「あっ そうだそうだ…その近くの新道のところに石が積んであるんだけど、知ってますか?」

「いいや、知りませんよ」

 

「その中に、赤い印のしてある石があるんだけど、その下に手紙が置いてあるから、それを多摩農協に届けてもらいたいんですよ」

「なに馬鹿なことを言ってるんだ! わたしは今から勤めに行かなくてはならないんだ。そんな暇があるわけないだろう」

 

「じゃあ、どんな事が起こっても知らないぞ。人命に関わることだからな」

男はそう言って電話を切った。30代くらいの男で、茨城なまりがあるように感じたという。A教師は、仕方なく110番通報して脅迫電話のことを知らせた。通報を受けた府中署から4分後にパトカーが到着すると、赤いダーマトグラフで丸く記された石を発見する。石の下には、ビニールに包まれた白い封筒が置いてあった。

 

脅迫文には、以下の文章が書いてあった。

ー「イイカゲンニシロ ヤクソクドウリ コノ前ノ 死体ノ バショヲオシエテヤル 命ヲウッタコトヲ セケンニ ハッピョウシロ ケイサツデモ ダイブサガシテイルガ オレタチハ ゼッタイ 口ヲワラナイ。 ダンケツシテイルカラ アンシンダ。 オマエノ トコロヲ ウランデイナイ。 ドウシテモ カネガ 必ヨウナ ダケダ。

 

一ドヨコセバ ニドト ヨコセトワイワナイ。チカウ。アナタノトコロデワ コノクライノカネワ ドウデモ デキルハズ。出パツハ 九ジ十五分ピッタリ。ジカンワジュウブンヤル。コースソノタワ 前ト同ジ。新宿マデ イクノ モワスレルナ。コンドシッパイシタラ二人カ三人カ 殺シテヤル コロシカタワ ツツンデ アルモノ ヲツカウ。何カワカルカイ。

 

モウ ケイサツニトドケルナ トワイワナイガ 十二ジスギニシロ。コンナコトヲ 何回モ シテイルト オレタチヨリ オ前タチガ ダンダン困ルゾ。一ド目ヲツムレバ スムコトダ ソノ方ガ男ラシイゾ。サツヲ タヨリニスルナ。男ラシク アナタノ ハラデ カイケツセヨ。ソウスレバ 死体ノ コトモ ダマッテイテヤル。

 

ソウスレバ ノウキョウノ 名ニモ キズガツカナイ 死ンダモノハ シカタガナイ ノダカラ。リコウニナレ。モウコレイジョウ 殺人ノ ナイヨウニスルノガ ホントウノ ユウキダ。ケイサツニシラセルノハ ダレニデモデキルコトダ」ー

 

そして、封筒を破いた切れはしには以下の文章が書かれていた。

ー「殺人ナドハ イチバン カンタンサ。ダレヲ コロシテモ イイカラナ。コレヲ タイリョウニ ツカエバ マタ 世間ハ オオサワギスルゼ。人ハ死ヌ」ー

 

その切れはしにはセロハン紙に包まれた粉末が入っていた。成分を調べると、その中身は塩素酸カリウムと硝石アルミニウムに、線香花火の黒色の火薬を砕いた粉だった。

 

死体の隠し場所の地図も同封されており、その場所は府中市小柳町から多摩川周辺の手書き地図だった。この地図には、“コン柱オキバ”といったその道の者しか使わない言葉も書かれており、後に電話工事や土木関係者ではないかという憶測を呼ぶのだった。

 

脅迫文に共通しているのは、カタカナを使った分かち書きがされていることで、大事な箇所には・ー・ー・ーという記号を付けるのは、テレックスなどで使う紙テープを思わせるものだ。このため、後の捜査本部では犯人像をカナタイプ経験者であることも想定して捜査が進められたのだった。

 

左・テレックスの機械と、右・鑽孔テープ(穴あきテープ) Photo by businesslawyers

 

また、4月25日に多摩農協の駐車場に置かれていた最初の脅迫文には「シテイシタ クルマニ ウンテンシャ一人 ノリ ジソク二〇キロデ ハシルコト」と書き記されていたが、この“運転者”という言い方は、警察関係者特有の言い回しであることから、警察官が関与したのではないかという憶測も後に呼んでいる。

 

府中署では、地図に書かれていた死体の場所を、実際に25人の捜査員を動員して捜索している。結果は、所轄警部の予想通り、何の発見も痕跡もなかったのだった。

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