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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 4

犯行の表舞台に立つ2台のカローラ

センパイOから2人への次の司令は、犯行に使う2台のクルマを用意することだった。特にこの2台は重要な意味を持つ。1台は現金輸送車からジュラルミンを載せ替えて逃走用に使うクルマ。もう1台は、現送車の前を走って栄町の空地で白バイに乗り換える際に使うクルマである。2台は、なるべく目立たない、どこにでもあるような大衆車にしてほしいと言われている。

 

1966年 初代カローラが発売される ※トヨタ自動車 所蔵

 

この2台は、犯行現場に乗り捨てられるため、たとえ盗難車としても足がつかないクルマでなくてはならない。2台のスカイラインでは、少年Sやノエルと結びついてしまう可能性がある。カオリやマリコなどを乗せているからだ。そこで、実行の直前に盗んだクルマを使うことになったのだ。

 

11月30日夜から12月1日の朝にかけて、日野市の平山団地近くで緑色のカローラが盗まれる事件が起こる。この場所には、1936年に開園した敷地6万6,000㎡にもわたる魚や合鴨などの養殖池や遊園地なども備える「鮫陵源」があった。被害にあったのは、この敷地に残された料亭の女将Nの自宅である。鮫陵源の敷地は戦争中に軍に接収され、1964年には平山団地として再開発されている。

 

戦前に魚や観賞魚などの養殖池や遊園地として栄えた「鮫陵源」のパンフレット

 

緑色のカローラは、1966年製の2ドアで当時最も売れていた乗用車だ。この家の車庫にはカローラにかけられていたシートカバーがきれいに蛇腹式にたたまれて残されており、地面には犯人のものと思われる2つの異なった足跡が残されていた。少年Sとノエルのものだ。

 

カローラは、エンジンをかけずに車庫から手押しで道路へと移動されてから、三角窓を割ってドアを開け、コードを直結する方法で盗まれている。

 

12月5日の夕方から6日の朝にかけては、日野市多摩平の公団住宅駐車場から1968年製のカローラデラックス4ドアが盗難にあっている。濃紺の色をした購入されたばかりの新車である。このカローラ窃盗事件も、少年Sとノエルによる仕業だ。2台のカローラは、本町団地へと運ばれてシートカバーを被せられ、12月10日の晴れの舞台の日まで待機させられる。

 

1968年 カローラデラックスの宣伝用ポスター

 

ノエルと少年Sのコンビネーションは抜群だった。実行をするのはSの役目、見張りをしていざという時の逃走を手助けするのがノエルの役目である。Sの動きは素早い反面、粗雑なところがある。この雑な動きを完全な動作へとフォローアップしていたのはノエルだったのだ。

 

ノエルには、同世代の少年を自由自在にマニピュレートできる特殊能力が備わっている。少年Sは、知らず識らずのうちに神業的な技術で窃盗を行うが、まさかそれがノエルによってもたらされているとは知らない。ノエルにしても、自分の特殊能力を話したところで誰にも信じてもらえないことは百も承知なのだ。

 

少年Sとノエルが2台のカローラを盗んでいるころ、賭博師Oはヤマハスポーツ350R1の白バイ偽装に着手していた。少年Sとノエルが11月20日未明に盗んだバイクである。Oは、自宅の庭にクルマ用のテントを張って簡易車庫をつくり、その中でバイクの偽装をはじめた。新聞紙でマスキングをして白のスプレーで塗っていくと、だんだん白バイらしくなっていく。

 

本物の白バイらしくするには、3つのポイントがある。白バイ警官を父に持つ少年Sから教えられたその特徴とは、以下のものである。

 

1.ハンドル近くに付いた2つの赤い警告灯

2.バイクの側面に取り付けられたスピーカーホーン

3.荷台に取り付けられている箱型の書類入れ

 

少年Sいわく、この3つさえ完備されていれば、素人目には白バイに見えるし、見破られることもないだろうということである。ホーン型スピーカーには、ノエルが調達してきた東亜特殊電機製のトランジスタメガホンを使った。このトラメガにも塗装が必要である。Oは、月ぎめで取っていた『産経新聞』1968年12月6日の朝刊をマスキングに使って白スプレーでトラメガを塗装した。

 

一番苦労したのは2つの赤色灯の取り付けである。Oは、赤く点滅するフラッシングストップランプをカー用品店で購入し、STOPの文字をベンジンで消して警告灯らしくした。

 

そして、この赤色灯を平行に取り付けるために、ステンレス製のタオル掛けに赤色灯をネジ止めし、金属製のホースバンドで赤色灯をバイクに固定した。電源スイッチをバッテリーに配線して、スイッチをオンにすると赤色灯が派手に点滅した。アマチュア無線が趣味で、基礎的な電気の知識を持つOには得意の改造である。赤色灯がフラッシュする様子は、改造しているOを興奮させた。

 

白く塗られたトラメガと合わせて、どこから見ても白バイにしか見えない仕上がりである。最後の箱型の書類入れには、 家に置いてあった明治クッキーの空き缶を利用した。この空き缶は白く塗装して荷台には白のビニールテープで止めた。あくまで、遠目から見て白バイだと思わせれば良いのだ。細部にこだわる必要はない。

 

白バイの偽装を終えたOは、その出来上がりを見てほしくて電話でノエルと少年Sを呼び出して、3人だけのお披露目会を開くことにした。白バイの衣装もすでに用意してある。上野のアメ横で揃えた黒革のジャンパーにズボン、これに警察官が使っているような革のベルトを白く塗装すれば、どこから見ても白バイ警官である。

 

昭和40年頃の白バイ警官 ※熊日写真ライブラリーより

 

Oは、警察官を辞めた後に携わっていた電気工事の仕事で使っていた電工ベルトと柱上安全帯に白ペンキを塗装して、革ジャンの胴まわりと肩から腰へとタスキ上にそれを縫い付けた。黒の上着に白のベルトの出で立ちは、白バイ警官そのものだ。これにヘルメットがあれば完璧である。ヘルメットは、ノエルが米軍基地からそれらしいものをすでに調達済みだ。ヘルメットの前部に徽章のようなマークを付ければ本物のように見えるだろう。

 

センパイOとノエルに少年Sの3人は、偽装白バイと白バイ警官の衣装の横で、12月10日の決行を前に祝杯をあげた。

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