オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 11
Yナンバーのフォードムスタング
少年Sのショッキングな死の報せを聞いた翌日、賭博師Oの家の庭には、大きな黒い外車が駐まっていた。Yナンバーのフォードムスタングだ。居間のソファには、黒い帽子の男とOが向かい合って話をしていた。

テーブルの脇には、現金約3億円が入ったボストンバッグが3つと、少年Sが犯行時に着ていた白バイ警官の服装、ヘルメット、半長靴が入った4つ目のボストンバッグ、犯行に使われたハンディトーキー2機が入ったミリタリーケースが置かれている。
Oは、帽子の男に現金強奪事件の報告をした後、男から強奪した現金についての説明を受けていた。
「このカネは、こちらで責任を持って預かる。クリーニングができたら、ある会社名義の口座に手数料を引いた金額を振り込む。振り込まれたら、その会社の通帳と印鑑を改めて君に届けるよ」
「手数料はいくらですか?」
「先日、強奪金のうちの一部の番号が公表されたろう?」
「はい」
「新札の5百円札で2,000枚、金額にすれば100万だ。君たちは、どうせこのカネは使えないだろうから、この100万をこちらの手数料としていただくつもりだ」
「なるほど」

「早ければ、来年早々には届けられるだろう」
「しかし、あんた方はそんなハシタガネでいいんですか?」
Oがそう聞くと、帽子の男は不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「我々の目的はカネではない。それは、最初から君に伝えている通りだ」
「じゃあ、いったい何が目的だと言うんですか?」
「それは、この私にも分からない。私の任務は、ハリウッド映画のような今回の犯罪を成功させることだけだ。もちろん、報酬はきちんともらっているから安心してくれ。君たちに裏金を要求するつもりもない」
「わかりました」
「ところで、今回の実行犯である少年は、本当に自殺したのか?」
「はい、確かなスジからの情報ですので間違いありません」
「亡くなった彼には申し訳ないが、これでこの事件が闇に葬られるのは確実になったな」
「そうでしょうか・・サツのほうでは、共犯者をいま必死に追いかけてるんじゃないですか?」
「その点については、すでに手を回してある。詳細は言えないが、今回の事件には単独犯の証拠しか残されていない。すべて我々が計算した通りのシナリオだからな・・安心してくれ」
帽子の男は、そう言うと立ち上がってOと固い握手をしてから、ボストンバッグを両手に持った。Oも、残りのバッグとハンディトーキーが入ったミリタリーケースを抱えて、男が乗ってきたムスタングにそれらを載せるのを手伝った。
帽子の男が乗った黒いムスタングは、賭博師Oの自宅を出ると、国道16号を通って福生の米軍ハウスの駐車場で停まった。ノエルが住むアメリカンヴィレッジから、クルマで25分くらいの場所にある米兵向けのアメリカンハウスである。
帽子の男は、クルマから降りて荷物を降ろし、ガレージの物置きのなかにそれらを入れて鍵をかけた。そして、自宅の部屋に戻って普段着から米兵の格好に着替えると、ハウスから横田基地へと向かって歩いていった。彼の名はウォーカー大尉。米国空軍横田基地に属する将校であり、ノエルの父リチャードの下官である。
ノエルと同様、日本人の母を持つ日系2世のウォーカーは、日本語が堪能で横田基地でも重要な仕事を担っていた。しかし、彼にはもう一つの誰にも知られていない裏の顔があったのだった。
関連記事
Akasaka Base|オリジナルのオーディオ製品とアメリカ雑貨
アカサカベースでは、トーマ・キャンベルがデザインした世界に例のないユニークなアイデアを活かしたサウンドグッズをはじめ、大人の秘密基地にふさわしいアメリカ雑貨やコレクターズグッズなどをセレクトして販売しています。
屋号 | Akasaka Base |
---|---|
住所 |
〒107-0052 東京都港区赤坂7-5-46 |
電話番号 | 03-3584-0813 |
営業時間 |
13:00〜18:00 定休日:土日祭日 |
代表者名 | 前嶋とおる |
info@akasakabase.com |